選ぶ、ということは同時に、選ばない、ということ

特許文献調査の業務を行いながら日々感じること、それは「選ぶ」ということの奥深さです。

2017年11月1日 河野 博信

 特許文献調査の業務を行いながら日々感じること、それは「選ぶ」ということの奥深さです。

 特許文献調査、とりわけ特許マップ調査においては、求める文献の集合を文献データベースから抜き出すための検索式の作成が、その調査の品質を決定付ける重要なステップの一つとなります。

 特許文献調査の検索式は、主として2つの要素から成り立っています。それは、キーワードと技術分類コードです。キーワードとは、その文字通り、文献中に含まれる言葉のうち特にその文献の特徴的部分を示す言葉のことを意味します。技術分類コードとは、その文献に含まれる技術内容に応じて割り当てられた記号を意味します。

 特許文献調査の検索式は、調査のターゲットとなる技術の観点ごとに、対応するキーワードや技術分類コードを選び、それらを適宜組み合わせることにより構成されます。従って検索式作成時には、キーワードや技術分類コードを適切に選ぶことがまず重要な作業となります。

 ここで、キーワードを使用した検索の簡単な例として、「スマートフォン」という言葉を選んだ場合を考えます。この場合、「スマートフォン」というキーワードを必ず含む文献集合では、例えば「タブレット端末」とか「ウェアラブル端末」といった言葉を使って対象物を表現している文献は検索結果から漏れてしまう可能性があります。つまり、実質的にスマートフォンに用いられる技術であったとしても、文献の中に「スマートフォン」という表現そのものが無い場合には、それらの文献は検索結果から抜け落ちてしまうことになります。あるいは当然ながら、スマートフォンではない「電子掲示板」や「電子ホワイトボード」といった技術的観点を含む文献も、検索した文献集合からは抜け落ちる可能性があります。

 検索結果から抜け落ちた文献が、調査の目的から考えて不要であれば問題ないのですが、必ずしもそうではないところにキーワードや技術分類コードの選択の難しさがあります。

 この難しさは同時に、何の条件(キーワードや技術分類コード)を「選んでいる」か、よりも、何の条件を「選んでいない」か、ということに対してどれだけ意識を向けられるかという難しさでもあるように思います。なぜなら、何かを選ぶ、という行動には、その他を選ばない、という行動が同時に伴うからです。上記の例では、当初選んでいなかった「タブレット端末」、「ウェアラブル端末」、「電子掲示板」、「電子ホワイトボード」といったキーワードも、必要に応じて検索式に追加しなければいけません。

 何かを慎重に選ぼうとするほど、より慎重に選ばない作業をしなければならない。なんとも逆説的な言葉ですね、「選ぶ」という動詞は。


 さて、先日、サッカーの試合を観戦しました。

 サッカー等の団体スポーツにおいては、際立って上手い選手が1人いるチームよりも、個々のプレーヤーは並みの力でもチームワークが優れるチームの方が得てして強いものだと思います。サッカーにおいてチームワークが優れるチームでは、あるプレーヤーがボールをもらおうとして動き、その動きによってできたスペースに他の味方が走り込むといった連携や、ボールを持っている味方がプレーしやすいように他の味方は犠牲的に走ってスペースを作るといった連携が、試合中自然に行われているように思います。

 このようなスポーツの場面においても、選んでいること(グラウンドの中で自分(プレーヤー)がいる場所)への意識と同時に、選んでいないこと(グラウンドの中で自分がいない場所、あるいは自分が移動していなくなることにより生まれるスペース)への意識が大切なのかもしれない、そんなことをふと感じました。

著者紹介
河野 博信Hironobu KOHNO

機械・構造系、化学系、物理・材料系など幅広い技術分野における知財情報分析を行う。企業発明者としての経験と知財の権利化に関わる実務者としての経験とを併せ持つ。座右の書は、「努力論(幸田露伴)」と「自己信頼(エマソン)」。主な趣味は、読書とジョギング(社内ジョギング同好会の現会長)。