完璧な食事とは何だろうか ~完全食のススメ?~

2020年12月3日 辻井 珠奈

・現代人の重要テーマ、時短
 生活、仕事や趣味にと、現代人はますます忙しい日々を過ごしている。その忙しさの種類はライフステージやワークライフバランスや各々のタスクへの踏み込み具合によって個々人で異なるが、一日24時間という制限は万人に平等である。この限られた時間を如何に有意義に、効率的に使うか、ということは現代人にとって重要なテーマの一つであろう。この実現にあたり付随してくる課題が、「時短」である。
 では何を時短するか。筆者は、①定期的に行う必要があるもの、②まとまった時間を要するもの、③時間をかけることがコストに直結しうるものの3つの行動に目を向けたい。最もわかりやすいものとして、家事の時短は注目されるものである。1950年代の洗濯機などの三種の神器の登場に始まり、現代では食洗器やルンバ(ロボット掃除機)の登場など、家事の時短のための家電製品も順次登場している。本稿では、見方によれば生活の中のタスクとも言える「食事」の時短について取り上げてみたい。

・時短と健康維持の両立
 食事の時間は、一日のうちのリラックスタイムでもあり人生の彩りでもある。ただ、寝食も忘れるという言葉にもあるように、一日一度以上、毎日行わなければならない面倒なタスクともとれる。基本的には用意・実食・片付けと三つのステップのそれぞれに時間がかかる。理想的な献立としては、一日30品目の食品を取り入れる、主食・主菜・副菜を組み合わせるといったことが求められるが、少し変化をつけようとすれば、各ステップの所用時間が雪だるま式に増える。しかし健康を意識しつつも食事の手間は省きたいというジレンマを抱えている人は少なくないだろう。そんな人たちが「一回の食事に必要な栄養素を手軽に摂れる食品」に想いを馳せることは、ごく自然な流れではないだろうか。彼らにとっての完璧(?)な食事を実現するものとして、「完全食」(Complete food)と呼ばれるジャンルの加工食品がある。これらは「完全栄養食品」と紹介されることもあるが、以下では「完全食」で呼称を統一したい。

・完全食というスタイル
 時短と健康維持向上の両方を実現したいというワガママを叶えるために、主に欧米をはじめとするベンチャー企業が2013年頃から市場に投入した「完全食」は、売上を伸ばしている。日本能率協会総合研究所によると、日本でも完全食の市場規模は2021年から2024年にかけて40億円から145億円規模に右肩上がりに拡大すると予測されている。※1



図 日本における完全食の市場規模・予測
(出所)株式会社日本能率協会総合研究所 「MDB Digital Search 有望市場予測レポートシリーズ」 プレスリリース
(2019年11月20日)

 完全食は、一日に必要な栄養素の約1/3の量をカバーしているという。なお、一日に必要とされる栄養素量を決めた食事摂取基準は国によって違っており、完全食に含まれている栄養素量は開発元の国の基準に基づいている。現在販売されている完全食の形態は、パウダーやドリンクタイプがメジャーだが、バーやパスタ、パンもある。ほとんどが植物由来の成分から製造されていることから地球環境に優しいとうたわれており、また比較的保存期間が長いことが多いことから、フードロス削減や、災害時の非常食料としての活用も期待される。
 完全食の先駆けとなったのが、アメリカ・シリコンバレーで2013年に開発・商品化された「ソイレント」( https://soylent.com/)である。イギリス発では「ヒュール」( https://jp.huel.com/)があり、2020年1月には単月で900万米ドル(2020年1月現在のレートで約9億8,000万円相当)を売り上げている。日本国内でもスタートアップ企業を中心に、COMP(https://www.comp.jp/ )、All-in Pasta( https://www.allinseries.jp/)、BASE FOOD(https://basefood.co.jp/)など、複数の商品が販売されている。価格は一食あたり300円~600円ほどである。食べてみると満足感もほどほどあり、一食分の栄養が摂れると考えれば高くはないだろう。
 続けて食べるためには、機能的な面だけではなく、味わいや香りや彩りや食感などからなる「おいしさ」も大切である。完全食を試食したというブログ等々では、期待値が高かったためか、おいしいというコメントは多くなさそうだ。しかし、筆者はプロテインバーのような栄養素量が調整された加工食品を食べ慣れているためかもしれないが、少なくともパンタイプについては、市販の菓子パンのようにおいしく食べることができると思っており、愛用している。筆者は忙しい日の昼食や、食欲のない日に食事をスキップすることによる翌日の食欲増加を予防するために利用している。
 おいしさやバラエティについては、各企業が試行錯誤を繰り返しており、今後改良や新製品が次々に登場するだろう。思えば完全食や「糖質制限ダイエット」という言葉が流行る前、十代の頃の筆者はスポーツの練習と学業の両立のための時短と、それと減量のために、通常の一食をダイエット専用食品に替えていたことがある。筆者が利用していたダイエット専用食品とは、ダイエット時に不足しがちな成分の補填と空腹感の緩和を目的とした加工食品である。これらのダイエット専用食品もかつては加工食品独特の味わいや食感が強く、我慢していたが、年を経るにつれて食品加工技術が向上し、次第に味わいや食感への満足度は高まっていった。この体験から、完全食についても同様に改良がなされていくと期待している。

・「完全食」は完璧か?
 極端な話をすれば、1日3食を完全食で済ませることで、食事に関しては極限まで時間と労力を削ることができるのかもしれない。しかし、食事の役割とは、栄養補給だけではない。家族など他者と共に食事を摂ることによる精神面に及ぼす良い影響も見逃せない。自覚できる範囲の良好な精神状態と、他者と食事を摂る共食の頻度との間には正の相関があり、また孤食の頻度との間には負の相関があることが国内の研究で報告されている※2。成人を対象とした研究では、共食をよくする人は健康関連 QOLが高いという報告もあるようだ※2。筆者自身の経験として、学生時代に複数の活動に関わり、寝るとき以外はToDoがあふれ、常に焦り空回りも起こりやすくなる状態が続くことがあった。そんな時期に、あえて友人たちと食卓を囲む時間をとることで、頭がリフレッシュされ、日々の生活を前向きに走ることができたように思う。せっかく食の選択肢の豊富な日本という国にいるのだから、どんなに忙しくても、完全食はあくまでバランスをとるための手段の一つとしてとらえ、バリエーション豊かな料理を食べに出かけたり、家族と食卓を囲んだり、一人のときもZoomやインスタライブなどツールを通して友人などとの食事も楽しみたいものである。笑顔も人生のバランスをとるのに必要な栄養素である。

※1  株式会社日本能率協会総合研究所 「MDB Digital Search 有望市場予測レポートシリーズ」 プレスリリース(2019年11月20日)
http://search01.jmar.co.jp/static/mdbds/user/pdf/release_20191120.pdf

※2 會退 友美・衛藤 久美 「共食行動と健康・栄養状態ならびに食物・栄養素摂取との関連」
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenkokyoiku/23/4/23_279/_pdf/-char/ja

著者紹介
辻井 珠奈 Tamana Tsujii

企画業務から知的財産調査業務まで幅広く行うよろず屋。古今東西の文化をたしなみ、多趣味と言われる。ミレニアル世代。クラシックバレエやフットサルにいそしみつつ、ウズベキスタンを再訪する旅に出たくて心がうずくこの頃。