ものづくり、プライスレス

2020年4月27日 住野 賢治

 思い返せば学生時代から身の回りはものづくりで溢れていた。工学系の機械コースを専攻していたということもあってか、研究室は手作りの実験装置に始まり、好きなサイズにカットしたアングル材を組んだ棚、手作りのベッドに至るまで先輩方の汗と涙の結晶で囲まれていた。「研究室は学び方を学ぶところである」という教授の偉大な教えの下、無いものは作るというものづくりの精神が代々受け継がれていた素晴らしい研究室生活を送らせていただいた。

 社会に出てからも「ものづくりの精神」を忘れずに、と思っていたが現実は甘くなく、業務に忙殺される日々を過ごしていたと思う。ビジネスマンとして費用と便益の感覚も染み込んだ。社会人生活が長くなり、心に若干のゆとりが持てるようになった頃に、薄れていた記憶がふと蘇ってきた。

 無いものは作る。ルアー(釣りの疑似餌針)を自作した話をしたいと思う。

 動画配信サイトが流行し、日々様々なジャンルの動画が多数配信されている。釣り具メーカー各社も新作のルアー紹介の動画を随時配信している。新製品の開発は当然ながら長い時間を掛けて行われているため、新作ルアーの発売は非常に楽しみである。一方で、開発途中の試行錯誤の様子も配信されているため、発売まで待てないという状況も多々ある。

 ある日、愛用する釣り具メーカーの新作開発動画が目に留まった。すぐ欲しい、すぐ使いたい、すぐ釣りたい。しかし販売されていない。無いものは作るしかない。

 ルアーの自作方法も容易に見つけることができた。その中から100均の材料だけで作るというコンセプトの動画を発見したときは衝撃が走った。ビビッと来た。すぐにメモを取り最寄りのダイソーに車を走らせて大人買いを敢行した。しかし、動画で紹介されていた全ての商品を見つけることは叶わなかった。壁は高い方が良い、というわけではないが、ひとまず次のダイソーを目指した。気を取り直してセリアにも行ったが無かった。高ければ高い壁の方が登ったとき気持ちいいもんな、というわけではないが、ホームセンターに辿り着いた。ここは天国か?全てがあった。この世の全てがここに置いてあった。

 ものづくり王に俺は‥‥‥ふと我に返って動画のコンセプトを思い出した。何のための100均か?ルアーは一つ2000円程度。すでに大人買いは済ませている。ホームセンターは100円均一ではない。慣れとは恐ろしいもので280円のカッターナイフでも高価なイメージが植え付けられてしまっていた。ルアー作りに繰り返し使える工具類を固定費、木材・金具・錘・フック等の材料を流動費、と考えれば損益分岐点を超えるために必要な自作ルアーの数は3つ。これ以上出費を増やせば採算割れ、ビジネスマン失格だ(笑)。

 そう思いながらもホームセンターは誘惑を止めない。また商品をカゴに放り込んでしまう。深く息を吸い込みゆっくりと吐き出した。やれやれ、これで必要なルアーの数は5つだ。5つ作れば、6つ目以降はお得。

 いや、本当は分かっていた、素人の作るルアーには価値がないことは。いや、素人だからこそ、1つ完成した時点で、ものづくりの楽しさ、釣れるかなというドキドキ、こんなシチュエーションでこんな使い方で釣れるはずという妄想、忘れていた素晴らしい思い出、試行錯誤、経験、達成感、プライスレス。そう、ものづくりはプライスレス。自分の手を動かして、頭を働かせて0から1を作ることは価格を付けられるものではない。

 今は2020年4月下旬。やむを得ず自宅にいる時間が長くなっている人が多いだろうと思う。料理をする。子供と一緒に工作する。普段できていなかったことに目を向けて、在宅時間のある今だからできることを楽しんでする。そういう意識を持つことで、気持ちの壁、社会の壁を、世界中で乗り越えていければよい、と思う。

そうしてできあがった、筆者自作ルアー
著者紹介
住野 賢治 Kenji Sumino

専攻は熱機械学。特許事務所での経験を糧に知的財産事業部で奮闘中。
好物はカレー。ライスでも、ナンでも、チャパティでも。