英語の試験は、特許の模範生!?

2020年3月3日 栗原 和明

<センター試験から共通テストへ>
 2020年1月、最後となる大学入試センター試験が行われた。かつてセンター試験を受験した者としては、センター試験がなくなることに一抹の寂しさを感じてはいるが、2021年度からは、大学入学共通テストが実施されることになる。

 共通テストに関しては、民間英語試験の活用や記述式試験の導入の是非などで大きな話題となっていたが、ここではその議論は置いておき、個人的に気になったのは、英語の配点の変更である。この配点の変更は確定している。センター試験ではリーディング200点、リスニング50点であったが、共通テストではリーディング100点、リスニング100点と、リスニングの配点の割合が大幅に増えるのである(*1)。

 私がセンター試験を受験したときは、そもそもリスニングの試験が無かったので、その後、リスニングがセンター試験に導入され、そして、共通テストでは配点が大きく増えるのを見ると、隔世の感がある。また、リスニングの導入に加えて、英語の大学入試問題の分量は増加し続けており、語彙のレベルも高くなって来ているとの評価もある(*2)。

 年月を重ねると、自分の価値観に囚われ、ついつい、「最近の若者は・・・」と苦言を呈したくなってしまいがちではあるが、これらの試験を突破して来る若者達には、少なくとも英語については敬意を表したほうが良いかもしれない。

<TOEICの変貌>
 そのような若者達に負けないように・・・というわけでもないが、私は現在、英語力の向上に勤しんでいる。これは、昨年、ドイツの弁理士と交流をする機会を得られた影響が大きい。特許調査業務についてプレゼンテーションをしたり、懇親会でプライベートな話をしたりといったコミュニケーションの機会が得られたのであるが、お互い英語の非ネイティブであっても、英語でコミュニケーションを取るのが前提となっており、英語力を向上させる必要性を痛感した。

 漠然と英語全般を勉強するといったやり方は、個人的には継続するのが難しそうだと考え、7~8年ぶりにTOEICテストを受験し、そのスコアアップを目標にすることにしたのだが、ここで浦島太郎状態を味わうこととなった。

 2016年に大きな変更があり、まず、そもそものテスト名が変わっていた(TOEIC®テストから、TOEIC® Listening & Reading Testへ)。また、3人会話問題や意図問題、図表問題といった新形式のリスニング問題が導入されていた。さらに、これがより重大だが、テストにおいて聴く量(聴かされる量)、読む量(読まされる量)が大幅に増えていたのである。

  
表1:TOEICの問題数
 

(「テストの形式と構成」(国際ビジネスコミュニケーション協会)
https://www.iibc-global.org/toeic/test/lr/about/format.html
「旧TOEICと新TOEICの違いを表で分かりやすく比較してみた」(ENGLISH Plus)
https://www.englishplus.jp/tec/kyu-shin/を元に筆者作成。)

 上の表のように、リスニングでは、写真描写問題(Part1)や応答問題(Part2)といった短文の問題が合計40問から31問に減少し、会話問題(Part3)や説明文問題(Part4)といった長文の問題が合計60問から69問に増加した。
リーディングでは、短文穴埋め問題(Part5)は40問から30問に減り、長文穴埋め問題(Part6)、長文問題(Part7)が合計60問から70問に増加した。

 前回受験したときは試験改正前で、短文の穴埋め問題(文法問題)や写真描写問題・応答問題で点数を稼ぐといった作戦を取っていたが、このような作戦はもはや通用せず、普段から、読む量、聴く量を大幅に増やす必要がありそうだと感じている。

<民間英語試験と特許>
 このように難化したTOEICに対して、地道に勉強を積み重ねるべきなのは当然であるが、あわよくば、TOEIC等の英語の試験対策に何かしら役に立つかもしれないとの期待を抱いて、TOEICを提供しているETS(Educational Testing Service)を含む、いくつかの民間英語試験の主催者の特許出願状況について調査を試みた。その結果、比較的多く出願をしている2社(ETS、ベネッセ)に、興味深い出願傾向が見られた。

・ETS (Educational Testing Service):TOEIC、TOEFL等を提供
 近年は、(残念ながら、私の個人的な当面の目標である)リスニングとリーディングの試験についての特許はあまり見られず、ライティングやスピーキングの試験の機械採点・自動採点に関する特許が米国において多数出願されていた。日本においても、「エッセイ中の過度の反復語使用の自動評価」という名称の、機械学習を用いて英作文を自動的に採点する方法が出願され、登録もされていた(*4、5)。この日本特許は、どうもライティングの試験で活用出来る技術のようだ。英作文においては、過度に同一の単語を繰り返さないほうが好ましいということを示唆しているのかもしれない。

 ただ、現状では、TOEICのスピーキングとライティングの試験は、機械採点ではなく、人によって採点されているようである(*6)。一方、ETSが提供している留学希望者向けの英語の試験であるTOEFLでは、ライティングの試験においては、英作文の「内容や意味は人間が判断」する一方、「言語的な特徴は自動採点する」といった活用により、人間とAIが役割を分担することで、「質の高い採点」を行っており、スピーキングの試験においては、「AI と ETS 認定のテストスコアラーを組み合わせることで、解答を評価」するとの記載があり、実際に機械採点がなされているようである(*7)。

・ベネッセ(ベネッセコーポレーション):GTECを提供
 スピーキングテストを受験するために、特定の会場に行く必要がなく任意の受験会場で受験することが出来るようにする特許や、スピーキングやリスニングテストにおける不正行為の防止に関する特許が出願され、登録もされている。特にスピーキングテストに関する技術に近年は力を入れているように見られる。ベネッセが文部科学省に提出したGTECに関する基礎資料を参照すると、少なくとも前者(任意会場受験)の特許は、本コラムの冒頭で触れた大学入学共通テストでの活用も見すえて、タブレットによるスピーキングテストを学校内などでも実施できるようにした技術の特許の可能性がある(*8)。

 一方、ETSに比べて、ライティングやスピーキングの機械採点に関する特許はあまり見られず、実際にGTECのライティングやスピーキングの採点も人手でなされているようである(*9)。

 TOEICに話を限ると、リスニング&リーディングの試験の受験者数は、スピーキング&ライティングの試験の受験者数に比べて圧倒的に多く、リスニング&リーディングの試験が事業の中核であると言える(*10)。その一方、4技能の向上の必要性は高まっており、ライティングやスピーキングの試験も今後活性化していくことが予想される(*11)。

 事業的には中核であるリスニング&リーディングの試験に関しては、おそらく技術的には成熟しており、新たな研究開発が盛んになされるといった状況ではないように思われる。その一方、事業的には比較的小規模なライティング&スピーキングの試験については、まだまだ技術開発の余地が大きく、実際のTOEIC試験においては今のところは用いられていないものの、AIを活用した機械採点等の技術開発がETSでは盛んになされていることが推測される。

 このような状況を鑑みると、英語試験事業者は、中核事業で安定的に得られる利益(私もその一部に貢献していることになるが)を、今後の発展が見込める比較的新しい事業の研究開発に投資するという、模範的な技術開発・特許出願状況にあると言えるのかもしれない(*12)。

(終)

(*1)ただし、大学ごとに配点比を調整可能。とはいえ、国立大学の傾向を見ると、全体的にはセンター試験のときのリーディング:リスニング=4:1よりもリスニングの配分が増える大学が多い。出典:国公立大 共通テスト英語 リーディング・リスニング配点比一覧(河合塾調べ)
https://www.keinet.ne.jp/dnj/21/eigo_hiritsu/21eigo_hiritsu.pdf
(*2)「難化する国内大学入試英語」(J PREP 斉藤塾)
https://j-inst.co.jp/learning-experience/domestic_collegesなど
(*3)私が7~8年前に受験した時の問題数。
(*4)ただし、維持年金不納により現在は抹消。
(*5)この特許における「反復語」とは、あるエッセイ中で繰り返し使われる単語を意味すると考えられる。
(*6)「採点について」(国際ビジネスコミュニケーション協会)
hhttps://www.iibc-global.org/toeic/test/sw/about/scoring.html
(*7)「TOEFL iBT® テストスコアを理解する」(Educational Testing Service(ETS社))
https://www.ets.org/jp/toefl/ibt/scores/understand
(*8)「資格・検定試験に関する基礎資料:GTEC for STUDENTS」の3枚目、8枚目のスライド参照(ベネッセコーポレーション)
http://4skills.jp/qualification/pdf/gtec_for_students.pdf
(*9)よくあるご質問「Q.SpeakingとWritingの採点はどのように行われるのですか?」「A.海外在住の英語話者が採点を行います。」(ベネッセコーポレーション)
https://www.benesse.co.jp/gtec/fs/faq/
(*10)「2018年度 TOEIC® Program 総受験者数は約266万人」(国際ビジネスコミュニケーション協会)
https://www.iibc-global.org/iibc/press/2019/p113.html
(*11)「TOEIC® Speaking & Writing Testsの受験者数推移」(国際ビジネスコミュニケーション協会)
https://www.iibc-global.org/library/default/toeic/official_data/sw/pdf/sw_transition_2018.pdf
(*12)仮に、将来、民間英語試験が大学入学共通テストに活用されることになり、ライティングやスピーキングの試験も実施されることになった場合は、大量の英作文や録音音声等を迅速に、かつ、客観的に採点する必要があるため、機械採点が必要になることが想定される。もしかすると、民間英語試験が共通テストに活用され始める時期は、機械採点技術の成熟度に左右されることになるのかもしれない。

著者紹介
栗原 和明 Kurihara Kazuaki

大学院では物性物理学を専攻し、液晶レーザーの研究に取り組む。
化学メーカーでの研究開発、知的財産部を経て、現職。
サッカー観戦とフットサルが好きな弁理士。