同期生って何だ?、を妄想してみる

2022年7月26日 倉沢 鉄也

2022年4月で、日鉄総研に入社して8年がたちました。入社当日(2014.4.1)は、私のみならず、新卒の人、いわゆる第二新卒の人、中途入社でも同業経験のない人、ある人、日本製鉄からの出向・転籍の人、がいました。さすがに「同期生」と呼び合うには無理がありました。

私にとっての新卒入社同期生は、事実上1人しかいません。30人強の会社でしたので、同じプロジェクトを2人で担当することはないまま、7年たって彼とは別の道を歩んでいきました。今も会えば呼び捨て・タメグチだと思いますが、直接の連絡は20年とっていません。

2022年現在の日鉄総研は、中途入社組の若者(20代~)がたくさんいて、「同期生」や年齢・年次の上下、敬語の要否などを語る文脈は、さすがに20世紀的センス。口に出せば年寄り扱い、なのだろうと思います。世の中もその方向に向かっていると思われます。

前置きが長くなりました。そうすると「入社同期生」の社会学的研究ってどうなっているんだろうと思って、少々Webを散策してみました。体系的な研究も、見識ある人たちの議論も、ほとんど積み上がっていないと理解しました。本稿で多少アバウトなことを言っても不勉強は露呈しなさそうです。

数少ない研究論文を、簡単にレビューしてみましょう。

♦ 「社会人年次で同期生」の若者でも、新卒組は全人格的に面倒見てもらえるが、中途組(≒第二新卒組)は具体的な業務内容しか面倒見てもらえない傾向。でも中途組は前職経験との対比で抽象的な課題の解決が可能。新卒組は定期異動がこれに相当する効果を生む。社会人年次10年たつとその差がなくなる。 ¹

‥‥なるほどそんな雰囲気も大企業の中にはあるでしょうね。

♦ 同じ部署・同じチームに「新卒同期生」がいると、仕事を覚えるのが早く、会社への愛着も増す。逆に別々の仕事をしている「同期生」に、仕事を覚えるという観点での効果は見て取れない。大学院修士課程のゼミでも同じ相関性が見て取れる。²

‥‥そうすると、単に同期生で飲みに行って会社の愚痴言ってるやつらは伸びない、ってことでしょうか。

♦ 若年者にとって、職場の人間関係は残留・離職の判断に(年増の人比で)けっこうな影響あり。しかも先輩や同輩が、その企業っぽいか、ぽくないか(原文表現は「組織の代表性を備えているか否か」)は残留・離職の判断にさほど影響なく、単純に人間関係のウマが合う合わないが大きく影響する。³

‥‥ガバナンスやインナーブランディングと称して総括する立場からは、これはなかなか重たい宿題ですね。

 「中途が、非正規雇用が、混在する職場での分析は未開拓」「仕事の教え込み具合とオフタイムの交流・刺激の整理も未開拓」「(不祥事や感染症など)不測の業績変動も考慮された研究はない」といった指摘を、研究者自身が当該研究で残された課題として述べています 。⁴

私の体験談をそこに加えると、お客さん(お金をもらう人)、取引先・アライアンスパートナー(お金を払う人)、場合によっては同業の競合(お金を奪い合い、状況次第では融通し合う人)の各担当者さんから、ビジネスマン同士として学ぶことや受ける刺激は大きいと感じます。私のように同じ業界・同じ職種で長年仕事をしていると、単に営業やソリューションの継続というだけではない、最大30年間の“血の結束”のようなものが、ひょっとすると社内の人よりも濃いと感じる場面、「同じ釜の飯を食った仲間」「同じ戦場で戦った友人」感を強く持つ場面、が多々あります。その人間関係は時間の長さにかかわらず大事にしているつもりで、たまに新たな仕事に化けたりします。

当然それらの人脈は「同期生」ではありませんが、おそらく20世紀的センスで言う「あいつ、同期だからさ!」的な感覚なのだろう、前述した研究論文の言う「同じ仕事をすると‥愛着が増す」ということなのだろうと妄想しています。

当社の後進メンバーに私から方法論や中身を、伝えたり盗んでもらったりしてもらえるものだろうか。新たに出会う後進世代のお客さん、新たに出会う後進世代の同業仲間(外注先、競合)、にもそのような刺激を与えたりもらったりできるものだろうか。そうした人対人(Web会議でも問題なし!)で仕事することの刺激と信頼の積み上がりを、楽しさと緊張感の中で享受しながら、シンクタンク研究員・ビジネスコンサルタントという職業を続けたいと思っています。

(了)


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¹ 鴻巣忠司(神戸大学)「新卒採用者と中途採用者の組織社会科の比較に関する一考察」(2011)
 https://mba.kobe-u.ac.jp/oldweb_pics/contents/students/thesis_files/workingpaper/2011/wp2011-4b.pdf

² Betty Le Zhou, John Kammeyer-Mueller,Priti Shah, and Elizabeth Campbell(University of Minnesota, Carlson School of Management)「Bonds between new hires lead to early success」(2021)
 https://phys.org/news/2021-10-bonds-hires-early-success.html

³ 初見康行(一橋大学)「職場の人間関係が若年者の早期離職に与える影響」(2017)
 https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/28480/3/com020201600401.pdf

⁴ 上記の脚注1と3の論文を抜粋要約。いずれも末尾に指摘している。


著者紹介
調査研究事業部/研究主幹
倉沢 鉄也Tetsuya KURASAWA

専門はメディアビジネス、自動車交通のIT化。ライフスタイルの変化などが政策やビジネスに与える影響について幅広く調査研究、提言を行う。著書に『ITSビジネスの処方箋』『ITSビジネスの未来地図』など。

1969年生まれ。東大法学部卒。(株)電通総研、(株)日本総合研究所を経て2014年4月より現職。