情報発信から、コミュニケーションへ              ~企業広報と運用~

2022年1月26日 木上 悠葉

 「ホームページを作りたい」「会社案内を作りたい」
 広報・営業プロモーションを生業にして13年、さまざまなお客さまのご要望にお応えして、さまざまな媒体を触らせてもらってきました。それらの多くの事例を振り返って気づくことは、「何のために」「誰のために」「その媒体をどう使いたいか」が抜け落ちている、或いは二の次になってはいないだろうか、という点です。

 完璧な広報・プロモーションなんてものはありません。これから出会うお客さまにとって、少し意識が変わる、少し視点が変わる、そんなきっかけになればと思い、今回は特に「企業広報」について考えを述べたいと思います。


<企業広報は、双方向コミュニケーション>
 例えば「会社として新しい取り組みをするから特設ホームページを作りたい」としましょう。
 このご希望を伺うと、大抵の方は下記のようなリアクションになります。

・何のために⇒自社の新しい取り組みを告知するため。
・誰のために⇒??…上司から作るぞと言われたから。
・その特設ホームページをどう使いたいか⇒作れば完成かと。そのあと使う…とは?

 このままスタートしてしまうと、「特設ホームページを自社のために作る」ことになり、内輪ごとで終始する→作ったこと自体が成果に化ける→数年もすると「そんな特設サイトそういえばあったな」、という状態になってしまいます。それは作ったことに問題があるのではなく、①情報発信を一方的にしようとしただけだったこと、②双方向のコミュニケーション活動を想定していないこと、③さらに言えばそのページを見る人(コミュニケーションのターゲット・受け手)の想定をそもそもしていないこと、が問題だったのです。
 広報活動とは、組織・企業が、既存や新規の顧客・株主・従業員・学生を含む一般世論などさまざまな人たちとの良好な関係を構築するために行うものです。発信するだけで受信を想定していない広報ツールがのちのち無駄遣い呼ばわりされることは、制作を支援した立場として一番残念で悲しいことです。


<双方向コミュニケーションとは、受け手を知ること>
 この場合の双方向コミュニケーションとは、必ずしも「1人1人との会話のやり取り」である必要はなく、発信した情報がどのようにユーザーに届き、どのような見られ方をしたかを把握しておくこと、その上で次の発信が改善できれば十分、というのがポイントです。Web技術の場合、確実に把握できるのは、「触れるまで」と「触れてる最中」。具体的には次のとおりです。

・「触れるまで」…メール等で送ったURLからアクセスがあったのか、Google等の検索結果からアクセスしたのか、など
・「触れてる最中」…そもそもターゲットとしたユーザーなのか。また、同じページを下まで見たのか、どのリンクを叩いて複数のページを見て回ったか、何分見ていて、何分後に去ったのか、など

 このように、情報発信した「後」をきちんと把握し、受け手のことを考えて次の情報発信の方法と内容を見直すこと、情報の精度を上げて運用すること、が双方向コミュニケーションの具体的な姿といえるでしょう。


<コミュニケーションの試行錯誤を運用の中に盛り込む>
 ここまでで、

・広報活動とは、一般世論などさまざまな人たちとの良好な関係を構築するために行うもの
・企業情報は発信するだけではなく、双方向のコミュニケーションを丁寧に行うこと

 という話をしてきました。運用・分析にはランニングコストがかかるため、厳しいコスト制約の中で費用の継続に二の足を踏む企業も多いでしょう。しかしそれは入口で考えなければならない話。双方向運用をした先に、コミュニケーションの受け手に対して何を目的とするのか、その出口をしっかりと定義した上で、発信そのものの要否から論じる必要があります。
 発信だけにしか予算投下しないことは、その予算を無駄に終わらせてしまうことと同じです。企業広報においては目的の達成だけが重要なのではなく、運用・分析自体の時間や金額に加えて、試行錯誤の道中も含めた時間や金額の猶予も想定しておくこと、この認識が重要です。


<まとめ:企業広報 “道”に万能・絶対はない>
 企業広報は大勢の人々を相手にします。把握すると言っても定量的な傾向にすぎませんし、万人にささるデザインやキャッチコピーの実現などは不可能です。これはきっと好印象だ!という情報の内容や方法でも不愉快にとらえられる場合もあるでしょう。情報のターゲットからの不評は要改善ですが、ターゲット以外からのネガティブなリアクションがあったとしても、発信した情報が形作る信頼は損なわれません。自由でのびのびとした情報発信はむしろ親近感と捉えられるでしょう。
 昨今は人々の考え方も多様化してきており、受け手が自信を持って発信する時代になっています。視野の狭い表現を改善する配慮は勿論必要ですが、信頼形成を築こうとしている受け手以外からのリアクションまで怖がることはありません。企業広報はそうした試行錯誤の繰り返しの上にやっと成り立つ双方向のコミュニケーションです。まず、一丁目一番地である「情報発信後の把握を継続させること」これを素直に、何度でも繰り返してみてください。

 企業広報に正解はありません。しかしきっと何年後か、振り返ったら紆余曲折はあるかもしれませんが、しっかりと踏みしめられた「企業広報道」となっているでしょう。

著者紹介
木上 悠葉Yukiha KIUE

印刷会社、旧日新製鋼グループでの制作担当を経て、現在は企業広報・プロモーション支援全般に関わる。
座右の銘は「継続は力なり」。
主な趣味は読書、数千の蔵書はいずれも小説で特にミステリ好き。
ここ数年は海釣りという新たな趣味と料理も開拓している。