鉄鋼と特許~特許を名前の由来とした鉄鋼技術~
特許は英語でパテント(patent)と言います。これは、「公開する」という意味であるラテン語のpatentsが語源と言われています(※1)。このパテントを名称の由来とした鉄鋼技術が存在します。
それは、「パテンティング」と呼ばれる、鉄鋼の強度を向上させる技術です。パテンティングは、鉄鋼を900℃以上に加熱し、その後、熱伝導率の高い金属浴で等温かつ均一に急速冷却することで下図のような層状組織を創り上げる熱処理技術です。斜めの黒色の筋と、白色・灰色の筋とが交互に並び、層状になっているのがわかると思います。
パテンティングされた鉄鋼は強度が優れており、現在でも橋梁用鋼線やタイヤの補強材であるスチールコードなど、私たちの身の回りの鉄鋼製品に、このパテンティングが使用されています。
では、なぜこの鉄鋼技術が、「パテンティング」と呼ばれるようになったかというと、この技術がイギリスで特許の第1号の案件となったためです。1854年にイギリスの特許法が成立した際、第1号の特許として、この鉄鋼技術が申請されました。この技術自体は、 第1次産業革命の時代に強度の高い良質なワイヤが必要となり開発されたそうですが、イギリスの特許法の成立までの間、長いこと秘密にされていたようです(※3)。
もしイギリスの特許法が成立せず、この鉄鋼技術が秘密にされ続け、「パテンティング」という名称にならなかったら、橋梁やタイヤの技術は、ここまで発展していなかったかもしれません。現在、「パテンティング」と呼ばれている鉄鋼技術は、特許の役割や重要性を象徴する技術とも言えるのです。
同様に、仮に世の中に特許制度がなく、発明が保護されない環境であったら、多くの発明は秘密にされ続け、私たちの身の回りの便利な製品やサービスは存在していなかったかもしれません。産業が発達するためには、発明の保護・公開を目的とする特許制度が重要となります。
※1:日本弁理士会 社長の知財
「中世のベニスで探勝した特許制度。その発達の歴史とは?」
https://www.jpaa.or.jp/shacho-chizai/episode/episode001/
※2:NIPPON STEEL MONTHLY 2006 MARCH VOL.156 p.14
※3:鉄の未来が見える本、新日鉄住金(株)編著、p.51