知財と地域活性化~コロナ禍で一極集中は変わるか?~

2021年12月16日 室 健一

 コロナ禍を契機として、在宅ワークや、出社勤務と在宅勤務を織り交ぜたハイブリッドワークなど、働き方の変革に向けた動きが加速している。それ以前、「働き方改革」という言葉は叫ばれつつも実態としては変わらない場面もあり、ようやく本格的に動き出した感もある。
 働き方改革で言われる勤務形態としてはITツールを使っての在宅勤務、出先でのモバイルワーク等があるが、場合によっては都心部に通う必要がないから自宅を通勤圏外に移してしまうなど、働く人々の住環境にも影響を及ぼしている。働く人々の居住地変更に留まらず、会社自体の機能を都心部から郊外や地方に移転する動きすらある。このような動きを受け、コロナ禍を新たな契機として東京一極集中が是正される可能性や、会社やそこで働く人々の移動に伴う地域活性化を論ずるケースも散見される。

 地域活性化や地方再生といった言葉が叫ばれて久しいが、長い間東京一極集中の流れを大きく変えるには至らず、日本全体では未だ取り組み途上の感がある。地域活性化等の取り組みに対して、知財面ではどのような動きがあるのだろうか。
 良く知られている事例としては、商標権における「地域団体商標登録制度」の創設がある。地名と商品名とを組み合わせた商標がより早い段階で登録を受けられるようにすることにより、登録した地域の事業者が得るべき収益が正当に得られること(=権利保護)、安心して次のビジネスを企画できること、ひいては長期的な地域ブランドの育成保護と、地域経済全体の活性化に資することを目的として、2006年4月1日より導入された制度である(*1)。「みやざき地頭鶏(じとっこ)」「枕崎鰹節」「黒川温泉」などの名称がこの制度で商標化された。
 この制度が導入されて15年が経過するが、地域別に見た近年の商標全体の動向はどうなっているだろうか。
 商標出願の出願人の住所を集計して都道府県別に出願件数を見ることが出来るので(*2)、その上位5都府県とその他道府県の全体に占める割合を経年で表したのが以下の図1だ。




【図1】 都道府県別の商標出願件数の割合


   
 図を見てわかるとおり、「東京都」が大きな割合を占め、次いで「大阪府」が位置している。「大阪府」の占める割合は2014年から2019年にかけて大きく変動してはいるものの、それ以外は、傾向は大きく変わらず、「その他」42道府県の動きも「東京都」に追随する動きとなっている。

 では、特許出願の方はどうなっているだろうか。
 商標と同様に、特許出願の出願人の住所を集計して都道府県別に出願件数を見ることが出来るので、その上位5都府県とその他道県の全体に占める割合を経年で表したのが以下の図2だ。
 また、特許の場合、出願人だけでなくその発明者の居所もデータがあるため、都道府県別の発明者数(延べ人数)を分析し、その上位5都府県とその他道県の全体に占める割合を経年で表したのが以下の図3である。




【図2】 都道府県別の特許出願件数の割合




【図3】 都道府県別の特許発明者数(延べ人数)の割合




 特許も商標と同様に、「東京都」が大きな割合を占めているが、第2位の「大阪府」との差も大きく、商標よりはるかに東京集中の傾向が強いと言える。そして、過去9年間を通じてその変動はほとんどなく、「その他」42道県の発明者の割合に関しては、微減傾向ですらある。

 こうした東京一極集中の硬直化した構造は、なかなか変えるのは難しいが、今回のコロナ禍を契機として、人口の動きだけではなく知財の面でも変化が見られるだろうか?そして、知財の分野でも、地域活性化や地方再生に繋がる貢献は出来るはずであり、知財を通じて地域の活性化、ひいては日本全体の活性化に繋がれば、喜ばしいことである。


 

(*1)特許庁HP:「団体商標、地域団体商標及び防護標章登録制度」
   https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/dansho.html

(*2)特許行政年次報告書2015年版~2021年版

著者紹介
室 健一Kenichi MURO

専攻は地球物理、素粒子論。
官公庁、特許事務所、精密化学メーカー知財部を経て、現職に至る。
趣味は、海外の離島めぐり、書店めぐり。