コラム

プリキュアとミジンコに学ぶ多様性戦略

~多様性を尊重することに、果たしてメリットはあるのか~

2019年6月4日 熊谷 宜子

 近年、日本のメディアでは多様性を肯定し、大切なものとして認めようとする風潮がある。
 また、多様性の大切さを説く風潮は成人のみならず、子供向けのコンテンツにも反映されつつあることが散見される。

 

 その一例として、女児向け著名テレビアニメ「プリキュア」シリーズが挙げられる。プリキュアはシリーズによって設定はさまざまであるが、多くは普通の少女達があるきっかけで伝説の存在(伝説の戦士、伝説の魔法つかい、伝説のパティシエなど)であるプリキュアに変身できるようになり、仲間達とともに世界を救う日本のテレビアニメである。従来の「プリキュア」シリーズではプリキュアに変身するのは少女のみであったが、近年ではアンドロイドのプリキュア[1]や男の子のプリキュア[2]、さらには宇宙人のプリキュア[3]など、多様性に富むプリキュアが登場している。


 近年のプリキュアは多様性がテーマであるとされ、それは一視聴者の感覚としても強く感じ取ることができる。
 それではここで、実際に過去のシリーズと比べてどの程度「多様性」の度合いに差異があるのか、「プリキュアの別離」を例に以下の図で視覚的に示してみよう。
 図1はプリキュアの各キャラクターの進路の多様性度合いを視覚的に示すため、各キャラクターにおける仲間との別離選択の意志の強弱を横軸、物理的距離の遠近を縦軸にして、「仲間との別離を選択したか否かと別離した場合の距離」の関係性を図示したものである。




図1:各プリキュア(キャラクター)の別離に見る進路選択の多様性
※出典:視聴経験に基づき筆者作成。
※注記:西暦は当該キャラクターが登場する番組の放送開始年。本図は筆者が視聴したシリーズのみをサンプルとしているため、全てのシリーズを網羅できていない点についてはご容赦いただきたい。なお、最終回における離別有無の判断が困難であったキュアマシェリ(2018)については図に反映していない。


■従来のプリキュア考察
 下記図1-1は図1のうち別離を選択しなかったプリキュアを示したものである。
 本図から明らかなように、過去(2013年度以前)のシリーズにおける多くのキャラクター達は最後まで別離することなく、その後も皆身近にいて仲良く過ごしていく内容で終わっている。




図1-1 「皆が一緒に居続け、同じ方向を向く」かつてのプリキュアたち
※出典:筆者作成。注記は図1に同じ


 このような「皆が一緒に居続け、同じ方向を向く」という流れは別離という形のみならず、進路面や感情面においても現れていた。
 代表的なシーンの一例としては、自分の夢を叶える機会を犠牲にして仲間の元に駆け付けるキュアベリー[4]や、娘(キュアブロッサム)のために大学教授の職を辞しヘッドハンティングも断る父親[5]、そしてラスボス(最後に待ち受けている最強の敵)により父を目の前で殺され、ラスボスに対する憎しみの心を抱きかけるキュアムーンライトをキュアブロッサムが叱責し、プリキュアのあるべき姿へ導くシーン[6]などが挙げられる。


■近年のプリキュア考察
 さて、それでは近年のプリキュアの傾向はどうだろうか。
 近年になるとプリキュアたちが自らの意志で別離するものが次第に見受けられるようになった。
 別離が描かれ始めた当初(2015,16年頃)は、必要に迫られての別離というケースが多かったが、それも後年になるとプリキュアたち自身の意志による別離が主体となっていく。
 特に図1-2に示すように、2017年の番組「キラキラ☆プリキュアアラモード」においては、全プリキュアが物理的な距離に関係なく、自主的に別離を選択する様相が描かれた[7]。




図1-2 自主的に別離する「キラキラ☆プリキュアアラモード」でのプリキュアたち
※出典:筆者作成。注記は図1に同じ


 つまり、近年のプリキュアでは個人の価値観の多様性を尊重し、そのためには別離さえも厭わないという傾向がみられる。ここからも、多様性を認めるという風潮が強く反映されつつあるように見受けられる。


■「多様性」を尊重する風潮への疑問
 だがここで一つ考えてみよう。
 このように、成人のみならず子供向けコンテンツにも「多様性」を尊重すべきという意識が浸透しつつあるが、それは本当に意義のあることなのだろうか?
 ただ単に「多様性」を認めることが美徳であるとか、諸外国の流れに合わせて価値観を押し付けられているだけでは?と感じる人はいないだろうか。
 そもそも個人や社会は、「多様性」を尊重することで現実的に何かメリットがあるのだろうか?


 そこで本コラムにおいては、状況に応じて「単一性」と「多様性」、いずれかの生存戦略を選択するミジンコという生物を例に、生存戦略としての「多様性」の意義について検討してみよう。


■ミジンコからの考察
 ミジンコは、田んぼや池で見られる動物プランクトンの一種である。実はこのミジンコ、環境に応じて単為生殖(メスのみで子を作る)と有性生殖(オスとメスとで子を作る)を使い分けていることをご存じだろうか?




図2:ミジンコの生活環(単為生殖と有性生殖)
※出典:筆者作成([8][9]参照)

 ミジンコは生育に好適な環境下にあるときは単為生殖を選択し、メスのみで子を産む。反対に生育に厳しい環境下では有性生殖を選択し、オスとメスとが交尾して子を産む。
 以下では、単為生殖と有性生殖それぞれについてもう少し説明しよう。


■単為生殖
 単為生殖はオスが不要なため、全ての個体(メス)が子を産むことができる。このため爆発的に子(遺伝子)を増殖させることができる。
 このためミジンコにとっては、生育に好適な環境下(例:長日・高温・富栄養・低密度)[8][9]にある場合は「単一性」の高い遺伝子を増殖させることこそが、自分の遺伝子を最大限残すための最適な戦略となる。




図2-1:単為生殖(メスのみで生殖)
※出典:筆者作成([10][11]参照)


 しかし、単為生殖における子の遺伝子はメスのみから由来のものになるため、環境が変化した場合にそれらは死滅してしまうというリスクがある。


■有性生殖
 生育に厳しい環境下(例:短日・低温・貧栄養・高密度)においては、図2にあるようにメスはオスを産み出し、そのオスとメスとで有性生殖を行う。そしてメスは、厳しい環境下でも生き延びることが可能な耐久卵を産む。[8][9]
 有性生殖は、子を産めないオスも産む必要があり、かつ、繁殖相手を探す時間と労力を要するため、単為生殖の場合と比べて子の増殖スピードは遅い。しかし、下図(図2-2)に示すように子の遺伝子は多様なものとなる。[11]
 このようにしてオスとメスとで子を産み続けて世代を経ることで、集団内での遺伝子はさらに多様なものとなる。




図2-2:有性生殖(オスとメスとで生殖)
※出典:筆者作成([10][11]参照)


 このように各個体の遺伝子が多様となると、厳しい環境下であっても全個体が死滅することなく、いずれかの個体が生き残る確率が高まる。
 このため、生育に厳しい環境下においては遺伝子の「多様性」を実現する「有性生殖」こそが、自身の遺伝子を最大限残すための最適な戦略となる。


■経済状況の変移と、最適な戦略の変移
  日本社会における経済成長率は高度成長期から徐々に低下し、現在はマイナス成長こそ脱却しつつあるものの、依然その値は低迷したままである。[12]
 経済成長率が高い水準であった過去であれば、大企業や主要産業に従事した皆が一丸となって尽力することで、結果的に個々の利益が大きくなりやすい傾向があった。
 このため、「皆が一緒に居続け、同じ方向を向くことが好ましい」という、単一性の高い価値観が集団内に浸透していた。
 だが経済成長率の低迷する近年は、大企業の経営破綻や、主要産業の伸び率の低下といった事象により、同一の戦略を採用することで企業や個人が一斉に破綻するという危険性に晒されるようになった。


 そのような中、経済活動においては、多種多様な産業を創出する方が企業にとっても個人にとっても利益が高くなりつつある。なぜなら、多種多様な産業が産まれることで、経済環境の悪化によりすべての企業が破綻することが防がれるとともに、悪化した経済環境下に適応できる産業分野であれば、その産業に属する企業は利益を増加させることが可能となる。
 また、各個人においても、多種多様な産業での就業が選択肢になったうえ、個人の特性に適合する多様な働き方を尊重する風潮により、自身が獲得可能な利益を増加させやすくなる。
 このため、「個々にとって最適な価値観を有することが好ましい」という、多様性を尊重する思想が集団内に浸透するようになったと思われる。


■まとめ
 経済成長率が低迷する現代日本社会においては、各個人の利益が最大となる生き方は個々人の特性や環境によって大きく異なるものとなりつつある。
 このため、「皆が一緒に居続け、同じ方向を向く」という生存戦略は、現代日本における各個人にとってはもはや最適とは言えない戦略となってしまった。


 個人や社会が互いに「多様性」を認め合う。自身にとって最も有意な生き方を選択するのみならず、機会獲得を他者から阻害されないよう、互いに価値観を許容しあう。
 経済成長率の低迷する現代日本においては、これらこそが結果的に個々の利益を最大にするための最適な生存戦略なのである。


「僕は君のために僕を変えることはできない」(若宮アンリ 2018年度)[13]
「『大好き(やりたいこと)』を諦めなくていい」(キュアペコリン 2017年度)[14]
「私は私を否定しない。夢と希望を捨てないし、自分の可能性を諦めない」(キラ星シエル 2017年度)[15]


 そして「プリキュア」シリーズの制作者側はそんな時代の変化をいち早く察し、現代そして近い未来における最適な生存戦略を示しているのではないだろうか。
 先入観のない子供を対象としたコンテンツには、生物の進化モデル同様、現代を生き抜くための貴重なヒントが実は示されているのかもしれない。(了)


※引用
[1]HUGっと!プリキュア第20話「キュアマシェリとキュアアムール!フレフレ!愛のプリキュア!」
[2]HUGっと!プリキュア第42話「エールの交換!これが私の応援だ!!」
[3]スター☆トゥインクルプリキュア第2話「宇宙からのオトモダチ☆キュアミルキー誕生!」
[4]フレッシュプリキュア第9話「美希の夢 私プリキュアやめる!!」
[5]ハートキャッチプリキュア第9話「スカウトされたお父さん!お花屋さんをやめちゃいます!?」
[6]ハートキャッチプリキュア第48話「地球のため! 夢のため!プリキュア最後の変身です!」
[7]キラキラ☆プリキュアアラモード第49話「大好きの先へ!ホイップ・ステップ・ジャーンプ!」
[8]ミジンコの環境依存型性決定を司る幼若ホルモンシグナル経路の解析 豊田賢治
[9]ミジンコを用いたバイオアッセイ(国立環境研究所 環境リスク研究センター環境曝露計測研究室 鑪迫典久)
[10]シロアリの繁殖システムの解明  京都大学OCW
[11]行動生態学 第6章「6.1.2 有性生殖のコストと進化」日本生態学会 共立出版
[12]日本経済2018-2019 景気回復の持続性と今後の課題 内閣府政策統括官
[13]HUGっと!プリキュア第19話「ワクワク!!憧れのランウェイデビュー!?」
[14]キラキラ☆プリキュアアラモード第49話「大好きの先へ!ホイップ・ステップ・ジャーンプ!」
[15]キラキラ☆プリキュアアラモード第23話「翔べ! 虹色ペガサス、キュアパルフェ!」



著者紹介
知的財産事業部/主幹
熊谷 宜子 Kumagai Takako

大学院で進化生物学を研究の後、元公社企業での官公庁向け企画業務、特許事務所での権利化業務に携わり、現在は鉄鋼分野の権利化業務を行う技術者。ワークライフバランスを大事にする二児の母でもある。