産業の発達を支える「特許」

2023年6月26日 T.H

 

 「特許」という言葉は、普段の生活でもホームセンターや通販、ニュースなどで時々目に
します。侵害訴訟などが起きているように、特許は技術などに対する権利を保護してくれる
強力なものであることは多くの方がご存じの通りです。
 ところで特許にはもう一つ、とても重要な役割があります。
 それは「公開」されて「利用」されることです。


* * *

 特許制度の趣旨は発明(※1)を公開する代償として独占排他権を与えることであり、公開
された発明の利用・改良によって産業が発達することを促しています。(※2)
 つまり特許は「独占」されるだけでなく、その技術を「公開」し「利用・改良」される役割を持っていると言えます。(※3)


 特許が話題になるときは特許権侵害など独占の側面で注目されることが多いため、「公開」
「利用」と聞いて意外に思った方も多いかもしれません。


 「産業の発達のために貴殿の発明を公開してください」と言われても、少なからずコスト
をかけて創り出し今後の収益が期待できるものを無償で公開するのは惜しいですよね。


 そこで特許制度では「特許権」という強い独占排他権を与えることによって、発明の公開
を促しているわけです。


 では、特許権を取得するための条件は何でしょう?
 ポイントは「産業の発達」です。


 公開された発明に独占排他権を与えた結果、産業の発達が阻害されることは制度の趣旨
に反します。


 たとえば、
 ・すでに世の中で自由に使われているもの、誰でも知っているもの
 ・既存の技術からハードルなく改良できるもの、誰でも思いつくもの
 などが独占されてしまえば産業の発達どころではありません。

 そのような事態を避けるために、特許制度においては特許権を与えるための条件として
 ・既存の技術に対して新しいこと(新規性)
 ・容易に創り出せないこと(進歩性)
 を定めています。(※4)

 これらの条件をクリアして初めて発明が産業の発達に寄与するものと認められ、「特許権」
を取得することができます。(※5)

 新規性と進歩性については本シリーズ第1回で特許権取得のための重要な条件として紹
介しましたが、その根底には上述の様に「産業の発達を促進する」という特許制度の目的が
存在するのです。


* * *

 私が所属する西日本知的財産推進部では、研究者や技術者たちが創出した発明について
特許権を取得するための業務を行っています。私たちの仕事は特許を通じて産業の発達に
寄与できる、意義ある仕事と自負しています。
 実際の業務では発明の関連技術や国内外の法制度等に関する知識をインプット・アップ
デートし、部員どうしが切磋琢磨しながら、発明が特許として認められるための最善策を
日々模索しています。
 数々の条件をクリアし、当初思い描いた通りに特許権が取得できた時の喜びはひとしお
です。


 研究者を始めとする様々な立場の関係者とコミュニケーションを取りながら特許権取得
を目指す活動には学びと刺激が溢れていますので、知的好奇心旺盛な方にはうってつけの
仕事だと思います。


 
 

(※1) 発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と特許法で定義されています。詳しくは以下に解説があります。
   2022年度知的財産権制度入門テキスト 第2章第1節[2]特許法上の発明(保護対象)
   https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/2022_nyumon.html
(※2) 特許法の目的は第一条に次のように規定されています。
   第一条:この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。
   e-Gov法令検索>特許法
   https://elaws.e-gov.go.jp/

(※3) 執筆現在(2023年6月中旬)、安全保障上公開が望ましくない発明の扱いについて議論が進められています。
   経済安全保障法制に関する有識者会議(令和4年度~)|内閣官房ホームページ
   https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/4index.html

(※4)  特許の審査基準のポイント(特許庁)
   https://www.jpo.go.jp/system/patent/shinsa/index.html

(※5) 新規性、進歩性の他にも様々な条件(「利用・改良」の観点では「実施可能要件」など)を満たす必要がありますが、本稿では割愛します。

著者紹介
西日本知的財産推進部
T.H

2016年新卒入社、特許出願支援を中心に従事