意外と“いける”、オンライン旅行

2021年3月23日 久岡 由実

 ブッブーというクラクションや、たくさんの人の行き交う喧騒が聞こえ、思わず身を乗り出し、夫婦揃って画面にかじりついてしまった。たくさんの人に混ざって牛や犬が街を歩いている通りが目の前に広がり、一瞬でインドの世界に引き込まれた――

 2020年の春頃、TV番組でオンライン旅行が取り上げられていた。オンライン旅行は、ただ映像を見るだけで、YouTubeやTVで街歩きの映像を見るのと大差ない、お金を払ってまで参加する価値が本当にあるのかと思い、全く利用する気になれなかった。しかし、オンライン旅行を体験した人から、意外と面白かった、楽しかったという話をちらほら耳にするようになり、その存在を知ってから半年以上経過した2021年1月、初めてオンライン旅行に参加をした。そのインドのオンライン旅行のワンシーンが冒頭の段落である。

 オンライン旅行を調べてみると、オンライン旅行は、旅行会社や航空会社、バス会社など多数の企業がツアーを企画していた。ツアーの種類も、場所は国内・海外、参加形態は個人・団体、形式はお土産付きの旅行、中継を繋いで複数の現地を旅行するもの、旅行先の映像や画像を用いガイドが詳細に解説してくれるセミナーのようなもの、など多種多様であった。お金を払うなら、しばらくは行けないであろう海外、中でも今まで行ったことがない国にしたいと思い、該当する旅行先を探索した。ツアーの概要紹介文だけでなく、口コミや宣伝の写真等を比較し、初めてのオンライン旅行はインド・バラナシでの個人ツアー(45分、3,000円/端末)に決定した。当日を待ち遠しく思いながら、インドの文化に関して調べつつ当日を迎えた。
 当日は大画面で見えるようにノートPCをTV画面に接続し、Web会議システムがきちんと繋がるか緊張しながら待った。時間になると、ガンジス川近くの通りに立つインド人の現地ガイドと繋がった。インドやバラナシについて日本語で説明をしてもらいながら、牛や沐浴に向かう人々とともにガンジス川岸へ進んでいく。お寺での炊き出しの様子を見た後は、熱々のチャイをガイドが私たちの代わりに購入し飲んでくれる。バラナシのチャイは、マサラを入れるのが特徴とのこと。また、お店がたくさん並んでいる裏道を少し案内してもらう。裏道は入り組んでおり、現地の人でも迷うそうである。ガンジス川では、沐浴後のインド人2人組にガイドがインタビューしてくれ、視聴時のインドと繋がっているというリアルな感じがした。個人ツアーのため、その場で湧いた疑問に現地のガイドが日本語音声で答えてくれるというのが非常によかった。
 オンライン旅行終了直後は、初めて見聞きしたインドのリアルな様子や文化に触れ、リアルな旅行と同様に初めての土地を訪れた後にくる独特の高揚感に包まれた。また、ガイドが飲んでいたチャイがどうしても飲みたくなり、終了後に、早速、マサラを入れたチャイを作って飲み、インド旅行の余韻に浸った。
 リアルな旅行と比較すると、金額が安い、移動時間がなくネットを繋いだらすぐに行くことができる、そしてインドに行ったらお腹をこわすかもしれないといったアクシデントの心配は全くなく旅行を楽しむことができる、という点がメリットのように感じた。一方で、視覚や聴覚では楽しめるが、嗅覚や味覚、触覚が楽しめないのは少し物足りなかった。また、通信の不安定さ等から音声や映像の乱れは若干気になったが、今回申し込んだツアーでは旅行会社の担当者がサポートに入っており、通信トラブル時の対応がスムーズで、安心して参加できた。
 インドのオンライン旅行が楽しかったので、次にトルコ・イスタンブールへの団体ツアー(60分、1,577円/端末)に参加した。旅行会社の担当者1名が旅行客を代表して、現地ガイド2名と会話しながら、現地の様子を伝えてくれるツアーであった。当日は100組超の参加者がおり、人数が多くて質問ができないのではと不安に思っていたが、チャットに質問や感想を書きこむと、旅行会社の担当者が現地ガイドに質問を投げかけてくれ、一緒に行っている感じがした。バザール(市場)を案内してもらい、お土産の可愛らしさや建物の独特な内観などが強く印象に残った。コロナ禍が収まって自由に海外旅行に行くことができるようになれば、この地に実際に行ってみたくなった。ただオンライン団体ツアーの場合は、使用するWeb会議ツールにもよるが、顔や氏名が参加者全員に公開される点がやや気になった。

 今回の経験を通じて、オンライン旅行はリアルな旅行とは別ジャンルの旅行形態で、これはこれで“いける”のではないかと感じた。筆者は、オンライン旅行は引きこもりがちで刺激の少ないコロナ禍ではとても有効だと思ったのだが、他の参加者たちはどのように考えたのだろうか。2020年10月のJTB総合研究所の調査レポート※1では、海外オンライン旅行を利用したのは全体の10.4%、そのうち、今後も利用すると回答した人は43.5%、今後は利用を減らす・利用しないと回答した人は56.5%であった。筆者はオンライン旅行を気に入ったのでもっと利用に前向きな意見が多いものかと思ったが、実際には半数以下に留まった。音声の聞き取りにくさや映像の乱れ、ツアーの種類によっては臨場感が得られない場合もあり、最初に申し込んだ旅行商品の当たり外れと価格のバランスが、アンケート結果に影響しているのかもしれない。

 オンライン旅行の競合は、リアルな旅行よりもむしろ、映像を通して旅を見ることができるTVの旅番組ではないだろうか。TVの旅番組とオンライン旅行の違いは、音や映像の臨場感の違いや、双方向のコミュニケーションの有無ではないかと思う。TVの旅番組でも、観光客が通らないような細道を通ったり、地元の人と話したりもしているが、バイクや車のクラクションなど周囲の雑音が小さく、BGMを入れたり、映像を寄せたり引いたりして、映画やドラマのワンシーンのような感覚になる。一方で、中継をつないだオンライン旅行では、ありのままの雑音や雑踏の音が入ったり、ガイドが現地の人と現地の言語で会話したりと、リアルな世界と繋がっており、自分がその場にいるような感覚になる。また、TVの旅番組は映像を見るだけの一方通行での情報提供に対して、私が体験したオンライン旅行では、Web会議システムを通して現地ガイドと会話したり、チャットで自分の書き込みにコメントしてもらえたりするため、日本語で双方向のコミュニケーションが可能な点で、旅行感が増した。
 オンライン旅行はリアルな旅行と比較して五感で楽しむには劣るものの、手軽に参加することができる。また、TV番組と比較すると、費用は多少かかるものの双方向のコミュニケーション等により、実際に旅行に行ったという感覚が強い。筆者はまだ試してはいないが、お土産付きのオンライン旅行も申し込んでみたいと思っている。インド旅行の後はチャイを作って飲み、トルコ旅行の前にはトルコ名物のサバサンドを食べて気持ちを高めてから参加した。お土産など物販とのセット販売はTV番組にもないわけではないが、Webに親しんだ方にとって物販はオンライン旅行ならではの魅力の一つになるのではないだろうか。
 通常の旅行に比べて価格が安く、移動時間がないため気軽に参加できることから、刺激を受けたいけれど、仕事や育児等で長期休暇が取れない、子供が小さい、足腰が弱って長時間の移動が難しい、といった方には、“いける”オンライン旅行をお勧めしたい。

※1 新型コロナウイルス感染拡大の影響とアンケート調査からみる旅行者の意識と行動(2020年10月、JTB総合研究所)

著者紹介
久岡 由実 Yumi Hisaoka

地球の成り立ちに浪漫を感じ、学生時代は固体地球科学を専攻。
特許調査業務を経て、現在は技術調査や市場調査の業務に従事。
自宅周辺や庭園を散歩するのが最近の楽しみ。