永遠の0と1

2021年6月2日 住野 賢治

 「0と1」と聞くと何を思い浮かべるでしょうか?

 理系男子の私は2進法を思い浮かべ、0から始まり1、10、11、100、101・・・と続く単なる数字として認識します。文学が好きな人は、0は始点であり始まりの場所、そこから1歩踏み出すことでストーリーが始まる、という風に数字を言葉に置き換えて物語を紡ぐかもしれません。営業系の人は成果を示す大事な数字として捉えるかもしれません。サッカーファンなら、カテナチオ(イタリア語で「閂(かんぬき)」)という言葉に体現されるイタリアサッカーの美学「ウノゼロ」(鉄壁の守備で1-0で勝つこと)を思い浮かべるかもしれません。クリエイターなら、今まで無いものを創り上げる、つまりゼロをイチにするということを思い浮かべる人もいるでしょう。

 AI(人工知能)も突き詰めれば0と1の集合です。無数の分岐の中で0か1かという選択を続けることで最適な解を求める学習型のコンピュータプログラムです。人間との大きな違いは、疲れることがない、食・睡眠などの欲求がない、ということでしょう。疲れることがなく、食事を摂る必要がなく、寝る必要がない。人間は永遠に0と1を繰り返すAIの仕事に勝てるのでしょうか、SF映画では人間がアナログな手段でAIに反抗してその支配から脱する様がしばしば描かれますが、それは人として利便性追求だけが大事なことじゃない、人間臭い何かにこそ価値がある、というメッセージなのだろうと思います。

 少し逸れてしまいましたが、冒頭投げかけた「0と1」についての思い入れは人それぞれ違っていて、定義や類型化をすることは不可能でしょう。ここでは、最近起きた私の「0と1」について少し語りたいと思います。

 突然ですが、「シックスパック」(6-Pack)という言葉をご存知でしょうか。そうです、脂肪をそぎ落とし、鍛え上げて割れた腹筋のことです。

 缶ビールが6本入ったものではございません。2021年春、缶ビールの上部全体を覆う蓋を開けると生ビールのような泡が楽しめるという新製品が発売されましたが、試してみましたか?私は先日運良く入手でき、冷蔵庫の奥でキンキンに冷やして飲んでみました。しかし冷やしすぎたのか、泡の出が良くなくいつもの缶ビールのようになってしまいました。これでは商品の良さを最大限活かすことができないと、缶の周囲を手で覆ってビールの温度を上げてみると、泡が次々と湧き出てきました。見た目、飲み具合、なるほど生ビールでした。感動しました。昔は苦みが口に合わずにビール自体を避けがちでしたが、数年前にビールの美味しさに気付き、今は完全にビール党になりました。ハイボール党からビール党への転身です。

 また逸れてしまいました。ある日私は、晩御飯をたらふく食べ、ビールを飲みながらふと思いました。そうだ、腹筋を割ろう!と。決意した瞬間、不思議と酔いが醒めました。ほんの数分前まで暴飲暴食の限りを尽くした体はお察しの通り。

 頭の中では葛藤が始まりました。ダ~イエットは明日から~♪と悪魔の囁きが。いや、私はゼロをイチにするんだ、いや、膨らんだお腹のイチ(サンじゃないですよ!)をロクにするんだ、という強い気持ちを持つに至りました。

 某大手通販サイトで腹筋ローラーを検索しました。買いました。翌日発送です。息つく暇もなく、「腹筋ローラー バキバキ」で検索しました。絶望しました。目標が高すぎました。検索結果で出てくる筋肉を見て、無理だ、という感想しか出てきませんでした。いや、検索ワードが良くなかったのでしょう。検索ワードは大事です。「腹筋ローラー 初心者」で再度検索しました。なるほど、これならできそうだと、残ったビールを飲み干しました。ダ~イエットは明日から~♪、と気分良く口ずさみました。

 道具は用意できました。あとは知識です。腹筋を割る、と言っても筋肉は部位毎に分かれているため、そもそも腹筋自体は誰でもが割れて小さなシックスパックになっている状態です。その上に体脂肪が乗っていることで、私のおなかは陽の目を見ずにイチになっているだけだ、ということを初めて知りました。つまり、すべきことは二つ。一つは、腹筋を大きくするための筋力トレーニング、もう一つは、体脂肪を少なくするための“食事トレーニング”です。鶏ハム、ブロッコリー、トマト、ヨーグルト、ゆで卵を主食とし、夕食時に白米を出来るだけ食べない、という生活に変えることにしました。絶対に食べないという厳しいルールではなく、ストレスにならない程度にたまに少量なら食べても良い、ごくごくたまになら好きなだけ食べても良い、という継続できそうな緩いルールを設けてトレーニングに励むことにしました。そして酔っぱらいの妄言通り、次の日からダイエットを開始しました。なぜなら私はゼロをイチにして、イチをロクにする男だからです。

 取り組みを始めて2週間程経過しました。体重は3キロ程減りましたが、残念ながらロクについては見た目に現れるほどの変化はございません。ただ、筋力トレーニングの成果として日常生活で体が軽く感じるようになりました。また、“食事トレーニング”の副産物として、以前と同じものを食べてもより美味しく感じるようになりました。先日、チートデー(※1)と称して晩御飯にお寿司を食べましたが、一貫目のサーモンが、ごく普通のサーモンが、正確には回転寿司で一般的にサーモンとして提供されているトラウトサーモンが、今まで食べたお寿司の中で一番美味しいと感じました。味付けを薄くしたり、口に入る物・量をコントロールしたりしていることで味覚が鋭敏になっていたのでしょう。これからもこの“食事トレーニング”を筋力トレーニングと併用して続けていくことで、同じような感動の一皿を幾度となく味わえる、ということを希望に頑張りたいと思います。

 以上、私の「0と1(からの6)」の直近の実体験について書いてみました。こうした「0から1へ」を取り組む喜びを永遠に積み重ねていきたいと思っています。無か有か、するかしないか、という強い選択に悩まされるのではなく、何もない0の状態から小さいステップで1へのスイッチを入れるというような、気楽な思考に切り替えることをお勧めしたいと思います。先に述べたとおり、「自我の芽生えたAIが支配する世界で、人間が活路を見出すのはこういった人間臭さ」ですよね。末筆ですが、本コラムの読者様が日頃からやってみたいと思っていたことを始める後押しになれば幸いです。乾杯!


※1: cheat day。「だます・ごまかす日」の意。ダイエット期間中に、食事制限を無視して好きなだけ食べる日。月1~2回が適切とされ、代謝の改善、栄養バランスの改善、ストレス軽減などの効果があるとされる。科学的な定義は特にない模様。

参考 
https://forzastyle.com/articles/-/56751
https://retio-bodydesign.jp/columns/article/toushitsuseigen-cheatday/

 

著者紹介
住野 賢治 Kenji Sumino

専攻は熱機械学。特許事務所での経験を糧に知的財産事業部で奮闘中。
好物はカレー。ライスでも、ナンでも、チャパティでも。

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